昔から気圧の変化が苦手で、今日みたいに波打つような風が吹く日には決まって頭の奥が痛む。
そういう時は早々に歩いて帰るのを諦め、タクシーに乗ってしまうことにしている。
今まで、地元の同じ駅の同じ乗り場から同じような時間帯に、それなりの数のタクシーに乗ったけれど、不思議なことに、一度乗せてもらったドライバーさんに再び巡り合うという経験は今まで一度もない。
それでも、たった5分やそこらの短い時間だが、心の通った会話ができることもある。
今日は外出中に雨で濡れたせいか、タクシープールまで辿り着いたときには身体はすっかり冷えてしまっていて、タクシーに乗り込むと、行く先を伝えたきり話す気力を失ってしまった。
運転手さんは、はじめにバックミラーで僕を一暼しただけで、話し掛けてこない。目的地の近くまで車を走らせたところで「梅雨冷え、ですね」とポツリと言った。
「そうですね」とだけ返事をして支払を済ませ、礼を言って車を降りた。