その頃の僕はひどく傷付いていて、現実の世界に背を向けるように朝から晩まで小説を読み耽った。
作られた世界は、僕に精神の小部屋を与えてくれた。
『ノルウェイの森』は随分と上の世代の作家による時代背景も異なる過去の作品だったが、そのときの僕にぴたりとはまった。
物語は、規律と怠惰を、それから悦びと痛みを同時に与えてくれた。
いま読み返してみてもそこから何かしら得られるものはあるだろう。
でもやはり、十代のあの頃に読まなければ、自分の心のなかの小さな震えみたいなものを見つけることはできなかっただろうなとも思う。
自分に同情するな
という台詞が、何年たっても耳から離れないでいる。