GastronomieLiving

デコポンのケーキと聞いて。

子どもの習い事の送り迎えの合間、冷え切った心身を暖めようと、前から気になっていた喫茶店を覗いてみる。

居心地の良さそうな半地下のお店は、夜にはバーになるみたい。

注文したブレンドコーヒーが品の良い音を立てて供される頃になって漸く店内の暗さに慣れてきて、少しずつ目の焦点が合うようになる。

週替わりのメニューのところに『デコポンのケーキ』と書かれているのを見つけてまごまごしていると

「シンプルですけど、おいしいですよ」とお店の人が声を掛けてくれる。

僕は頷いて、柑橘の香りを思い浮かべながら残り少なくなってきた珈琲を楽しむ。

Lectio

暦の上の季節はいつでも天文学者の計画したとおりに進行していく。

- 吾々がもっている生理的の「時」の尺度は、その実は物の変化の「速度」の尺度である。

万象が停止すれば時の経過は無意味である。

「時」が問題になるところにはそこに変化が問題になる四元世界の一つの軸としてのみ時間は存在する。

ところがこの生理的の速度計はきわめて感じの悪いものである。

ある度以下の速度で行われる変化は変化として認める事ができない。

これはまた吾人が箇々の印象を把持する記憶の薄弱なためとも言われよう。-

寺田寅彦 / 春六題