Lectio

だから勤労とは別の、生活の場所でも、自分がここにいる理由、いていい理由、いなければならない理由を見失うということはなかった。

- 「勤労」以前の「家業」のような、土地に根を下ろした生業 (なりわい) には、専門の技術者たちによる分業のシステムが差し込まれていないので、

単一の仕事に従事することはまだふつうのことではなかった。いいかえると、だれもが複数の技を身につけていた。

仕事の合間に、近所の人に家や備品の修繕を頼むとか、魚を捌いてもらうとか、

さまざまの技術を提供しあうということが、暮らしのふつうの風景としてあった-

伊藤洋志 『ナリワイをつくる』

鷲田清一 / 解説 「なりわひ」と「なかなひ」

Lectio

大切な模様のところだけ黒い虫食い穴があいてしまったなつかしい布地のように

-戦争を境に、私は子供のときに大切にしていた本のほとんどぜんぶを失くしてしまった。とはいっても、家が戦災にあったわけではない。

すべてがせっぱつまったなかで、十五歳から十六歳にかけての一年間、東京の家から関西の家へ、そのつぎは家族と別れてひとり東京の学校の寄宿舎へと移りあるいているうちに、

ここで一冊、あそこで二冊と、無くしたり、そんなものは置いていらっしゃい、と言われたりしながら、

セミが殻を脱ぐように子供時代を脱いでしまって、

大切にしていたさして多くない宝物を、惜しいとも思わないであちこちに散らせてしまった-

須賀敦子 『葦の中の声』

思い返してみれば、こどもの頃から物心両面で本当にいろんなものを捨てたり、置いてきたりしてしまったなとも思うし、一方で根本的なところは何ひとつ変わってないような気もする。

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似合いますか

-文学好きの長女を、自分の思いどおりに育てようとした父と、

どうしても自分の手で、自分なりの道を切りひらきたかった私との、

どちらもが逃れられなかったあの灼けるような確執に、私たちはつらい思いをした。

いま、私は、本を読むということについて、父にながい手紙を書いてみたい。

そして、なによりも、父からの返事が、ほしい-

須賀敦子 『父ゆずり』

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長い手紙

-夫が死んだとき、北海道の修道院にいたしげちゃんから、だれからももらったことのないほど長い手紙がイタリアにいた私のところにとどいた。

卒業以来、彼女からもらった、はじめての手紙だった。

むかしのままのまるっこい書体で、私の試練を気づかうことばが綿々とつづられていた。

こころのこもったそのことばよりも、なによりも、私は彼女の書体がなつかしかった。

修道女になっても、まだおんなじ字を書いてる、と私は思った-

須賀 敦子 『遠い朝の本たち』

手紙もいいな、と思った。

小さい頃に、まだ元気だった祖母に宛てて書いた短い手紙のことを思い出した。下手っぴな字で、いつまでも元気でいてねと書いたその時の気持ちは今でも覚えている。

LectioStyle

遠い朝の本たち

背表紙のタイトルに惹かれて文庫を手に取ってみると、カバーデザインも僕好みだった。

舟越桂のおもちゃのいいわけ?

中身はまだ読めていない。でもいい予感はある。