Lectio

この子はお日さまが大好きでしてね

-鳥籠の覆いをはずして窓際の陽の当たるところに吊すと、彼女は後ろの食堂車に朝食をとりにいった。

彼女が寝台車のコンパートメントにもどってくると、ベッドは壁に押しもどされてシートができており、カナリアはひらいた窓から注ぎ込む陽光を浴びて羽毛をふるわせていた-

アーネスト・ヘミングウェイ 『贈り物のカナリア』

Lectio

せめて月の輝く夜には

-まち合わせの場所であったメトロポリタン・オペラの前にあらわれた女の美しい変りように、眼を見張りながら男は言う。

「おしゃれしてくれて、ありがとう」-

塩野七生 『人びとのかたち』

Lectio

Crime does not pay

-ドゴールは何度も暗殺されかけたが、いつもきわどいところですりぬけることができ、ベッドで死んだ将軍の一人として悠々と彼岸へ去っていった-

開高 健 『悪夢で甘く眠る』

Lectio

あの湖に何匹、あの谷川に何匹、おれの魚が棲んでいるのだと考えると、まるでその湖や川が自分のものになったような気がしてくるのである

-トルストイ伯爵が白樺林の領地を検分にでかけるように回想にとりかかり、純然と私のものであるアラスカの川、アイスランドの川、スウェーデンの湖と川、バイエルンの高地の湖と川…ひとつひとつ岸にたって水を覗き、岩の姿を眺め、森の栄養度を観察する-

開高 健 『太平洋を自分のものにする方法』

Lectio

死はいつも私の隣にいる。

-あの時、好い気持のままで死んでいれば楽だったのに、……生きるというのはとても大変なことなのだなと、その時思った。

(中略)

人間の命なんて自分の力ではどうにもならない、そう思い定めてしまうと、案外この世は生きやすいものである-

白洲正子 / 病は性格に似る