LectioLiving

甲州では「ほうとう」、群馬では「おっきりこみ」

-そのころ、春一番は乾徳山ときめていた。灌木帯を抜けると、いちど草地に出て、それからちょっとした岩場と、それなりに変化に富んでいる。

山梨の名刹 (めいさつ) 恵林寺の山号が乾徳山で、定規ではかったように寺の真北にある。

ホトケさまに見守られているぐあいで、安心して登れる-

池内 紀 『旅の食卓』

春一番、ではないのだけど、僕にとっても甲州は特別な場所のひとつで、暇を見つけては家族で訪れている。

6月になればまた塩山の農園で真っ赤に実ったさくらんぼ狩りができる、ほうとうを腹いっぱい食べられる、というのが心の支えでもあったのだけど。今年はそれも難しいのだろうか。

GastronomieLectio

高台 (たかだい)

高台というのはそこへ行くだけで気持ちをスッと落ち着かせてくれる。

塞いだ心には例えばうっとりするような景観や新鮮な空気が一番の薬になるはずなのに、今はその願いも叶わない。

日本平 (にほんだいら) にはまだ行ったことがない、かの地でいつか富士山と駿河湾を眺めながらお茶を楽しみたい。

Lectio

叡山電車 (えいざんでんしゃ)

午後は紅茶を飲みながら、雑誌をパラパラ。

“骨組み” 好きとしては思わず手が止まる。

こういうのは何色って言うのだろう。

前に比叡山を訪れたときは車だったから電車で行けるなんて思ってもみなかった。

いつかのための、楽しみがひとつ。

LectioLiving

料理はイモだけで ごちそうは会話

-私は若いころにヨーロッパ各地を歩きましたが、たった五〇〇人くらいの町でこんな美しい町があるのかと感心したことがありました。

日本で五〇〇人くらいの町であればただの田舎でしかないことが多いように思います。

つまり、そこには理想や文化がないからです-

水戸岡 鋭治 『電車をデザインする仕事』

あるいは、「我々にはあなた方に誇るようなものはないですから」と思いながら暮らしている人々が、我が国には多過ぎるのかもしれない。

以前、夜行列車を途中下車して北国の鄙びた温泉街に立ち寄った際、宿の主人が町と温泉の歴史について教えてくれたときのことを思い出した。

「他にはなにもありませんけどね」と、誇らしさと寂しさが入り混じったような表情で彼は言った。

この国の田舎らしい、とても美しいまちだった。

Gastronomie

長崎

東京にも美味しい長崎料理を食べられるお店はいくつかある。

時折無性に食べたくなって、皿うどんを箸でズルズル手繰ると昔訪れた土地のことを思い出したりする。

麺の上からかかっているこの “うま煮” みたいな餡にはいつも感心してしまう。

他のメニューを意識することもあるんだけど、やっぱり「太麺もできますよ」の一言には弱かったりして。

LectioSafari

ここで おりるよ。

間瀬なおかた 『バスでおでかけ』

子どもとバスに乗って出掛けることが増えた。

目的地は特に無くて、バス停でおしゃべりしながら適当なバスを待って、ふたりで奥の座席に乗り込んで外の景色を眺めて、ピンポンを押して一度降りて、リュックに入れたお水を飲んでまたバスに乗って帰ってくるだけだ。

いつか家族で、簡単には帰って来られないような山奥の村へ、バスに乗って行ってみたい。

IdeaSafari

いい靴

風のあまり強くない冬の晴れ間なんかに長い時間をかけて散歩していると、

ハイデルベルクを訪れた時のことを思い出す。

中央駅の近くで朝食を食べてしまうと、その日いちにち、何ひとつ予定が入っていない。

お金もないから別に土産ものを探すでもなく旧市街をただひたすら歩く。

お腹が空いたところでカリーヴルストだの、ザワークラウトだのを食べながらひと休みし、また延々と歩いた。

夕方、これだけ歩いても全然脚が痛くならないなんてとちょつと気を良くして宿へ戻ると、「君はいい靴を履いてるね」と相部屋の仲間 (イタリア人だったかな) が言ってくれた。

メーカーも、どこで買ったかすらも思い出せないようなスニーカーだったし、長いこと履いてきたせいで幾分擦り切れてはいたけれど、頑丈で、僕の足によく馴染んでいた。

そう言われてみればそうかもしれないなと思いながら、礼を言ってベッドに潜り込んだ。

IdeaLiving

before Facebook

学生時代、友人と訪れたウィーンでひとりのバックパッカーと知り合った。

決して人懐っこくはない僕にとっても彼は年の離れたお兄さんみたいな雰囲気で、その夜は皆で名物のシュニッツェルを食べた。

お互いのざっくりとした旅程を確かめ合うと「僕たちはミュンヘンでまた会えるかもしれないね。そしたらまたご飯でも食べようよ」と言って、そのまま別れた。

翌朝から別々の町へ向かった僕たちは、途中の鉄道の乗り換えが上手くいかず、結局は約束の時間に間に合わなかった。

名前も連絡先も住んでる街すら知らない僕達はもう会えることはないんだなとちょっぴり寂しい気持ちになったけれど、こういうのも人生だなとも思った。

いつかどこかの街なかで、ばったり会えたら素敵だななんて密かに楽しみにしている。