Lectio

最後はラジオで聴き、私はひとり、小林へ拍手を送った。

- 劇場を出て、銀座で肉を買い、帰宅して、ウイスキーをのみながら焼いて食べた。

食後、ひと眠りしてからテレビをつけると阪神・巨人戦で、小林が投げている。

蒸し暑い甲子園球場で、力投をつづける小林投手。

去年の彼には、まだ見られなかった鰭 (ひれ) が、たしかに現在の彼についてきている -

池波正太郎 『炎天好日』

最後に何かに心から拍手をしたのは、いつだったかなと考えてみる。

いま僕たちに必要なのは、夢中になれる何かとか、心を託せる誰かとか、そういうものなんじゃないかなと思ったりした。

Lectio

ああ、うまかった。また、寿命がすこし延びた。

- 三社祭、草市、四万六千日、針供養、羽子板市、そして酉の市……と、浅草の伝統行事は、いま尚、絶えていないし、

この行事をおこなうことによって、浅草は浅草としての〔存在〕をまもりぬいている。

そして、現代の若者たちも、異国の人びとも、これをよろこび、たのしみ、浅草へあつまって来るのだ。

その季節季節によって、時刻をえらび、酒をのむ場所と散歩の段取りをうまくつけて浅草へ出かけると、私などは、つくづく気がやすまるおもいがする-

池波正太郎 『浅草の店々』

GastronomieLectio

湯の帰りに蕎麦を手繰らないと、よく眠れない

-私を可愛がってくれた曾祖母も、何かごちそうをしてくれるといえば、蕎麦やであった。

先ず、曾祖母は、天ぷらなどの種物 (たねもの)をとってくれ、自分はゆっくりと一合の酒をのみながら、

「おいしいかえ?」

などと、はなしかけてくる-

池波正太郎 / 散歩のとき何か食べたくなって 『藪二店』

GastronomieLectio

柚子だけは贅沢をさせてくれ

-東京の者には塩鱈はなつかしいものだ。

小松菜を入れた鱈の吸物へ柚子を二、三片浮かし、

熱いのをふうふういいながらすすりこむ-

池波正太郎 『柚子と湯豆腐など』

鱈 (たら) 独特のホクホクとした食感と旨味。柚子のあの濃縮された果実味と香り。

どちらも僕の好物なのに、どういうわけか、今まで組み合わせたことがなかった。

そろそろまた鱈鍋がやりたいと妻にねだってみようか。